その日の宿は海の宇宙館からは歩いて5分ぐらいだった。民宿「栄丸」は見た感じ普通の家。玄関から入って、「今日泊る予約した者なんですが・・・。」と言うと、女将さんが「え、今日の予約ですか?今日は予約の方はおられませんが」との返答。しかし、部屋は用意できるのでどうぞと言ってくれたのでそのまま部屋へと入った。
玄関でのやり取りの際、女将さんは夫が電話を取ってメモし忘れたのかも知れないと言っていた。しかし、その可能性は絶対なかった。予約の電話をしたときは間違いなく女の人の声だったし、女の人なら電話に出るのは女将さん以外考えられない。何かがおかしいと思いながらも、荷物を置いて島を一周することに。天売島は起伏が激しいので自転車は借りずに徒歩で回ることに。天売島はとにかく海鳥が多い。四方八方、鳥が飛び回っている。フェリー乗り場から島の北側中央にある観音岬へ向う。この日もあまり天気がよくなく霧雨の降る肌寒い日だった。観音岬は切り立った崖にあり、崖一面がウミネコの営巣地になっている。しかも、その数が半端じゃない。崖一面、ウミネコだらけだった。
観音崎から島一番の観光名所(?)の赤岩へ向うことに。その道中、携帯(当然使えます)に知らない番号から電話が入る。出てみると、なんと、「萬谷旅館ですが本日は天売島についているでしょうか」との内容。えぇ!?萬谷旅館は今日泊る栄丸とどっちがいいか悩んだ末に辞めた旅館。何で、そんなところから電話がかかってくるんだと思いつつも話を聞くと、自分が今日の予約を萬谷旅館に入れていたとのこと。
つまり、自分は栄丸に宿泊の予約を入れたつもりが間違えて萬谷旅館の方に電話して予約していたのだ。何たる失態。ダラ丸出し。事情を説明し、栄丸さんにもう宿を取ってしまったと言うと「もう二度とこのようなことがないようにしてください。こっちも料理作って待っていたんですから」と、ごもっともな意見を受けた。
それからはもう赤石どころじゃなく、一刻も早く詫びを入れようと思い猛ダッシュで萬谷旅館に向った。しかし、いくら小さい島と入ってもその時自分がいたのは集落があるのとは間逆の位置。それでも出来る限り走り、赤岩へ続くわき道とスルーし、集落へと続く下り坂を一気に駆け下りる。こんなに一生懸命に走ったのは中学の部活以来と思うぐらいに走った。それでも萬谷旅館までは40分近くかかってしまったような気がする。旅館に入り、萬谷旅館の女将さんに今日、予約していたものですと名乗りホントにすいませんでしたと誠心誠意あやまった。予約をして無断でキャンセルしてのだからその日の分のお金は払うべきだと思ったのでお金を渡そうとすると、女将さんは「今回の分はいいからもう2度とこんなことがないように。」と言ってくれた。しかし、それでは自分が納得できなかった。約束を守らないのは大人として失格だ。全額払うと強く言うと、それなら料理分の3000円だけでと言ったがそれでもその時の自分は納得が出来ず全額払うと譲らなかった。しかし、女将さんもそれ以上貰うわけにはいかないと動かなかった。結局、最後には「自分の責任の勉強代として払わせて下さい。」と言い5000円受け取ってもらった。本当の宿泊料は7000円だったのだがこれ以上の不要な言い合いは女将さんの機嫌をより損ねるだけと思ったのでそこで引き下がった。金で物事を解決するのはよくないと思うけど、このときはそれ以外方法が見つからなかった。これでよかったか今でも分からないけど、今の自分でも同じ立場におかれたら同じ行動をすると思う。最後に女将さんは「今度、天売に来る時にはうちに泊ってね」と言ってくれた。島の人はホントいいひとばかりだ。
民宿栄丸に戻り事の顛末を栄丸の女将さんに話し、こちらにも詫びを入れる。こっちの女将さんは笑って「気にしないでゆっくりして。」と言ってくれたが、その日はもう何しても無味無感想だった。夕食は生きているムラサキウニを生と焼いたのもを頂いたが、全く味がしなかった。その時は後悔の念でいっぱいだった。
次の日、とりあえず赤岩を見に行く。100m近く切り立ったが崖の下を無数のウミネコや
ケイマフリが飛んでいた。その日もボーとしており、感情の起伏が訪れず、ずっと眺めていた。そこでもずっと昨日のことばかり考えていた。
フェリーの時間の2時間ぐらい前にフェリー乗り場に戻り、近くにあったお土産物屋へ。そこでは一人オバアさんが店番をしており、自分が来るなり、こっちに来てコーヒー飲みなと誘ってくれ、旅行に出て3度目のコーヒーを頂くことに。
フェリーがくるまで、このオバアさんとずっとしゃべっていた。親戚の話や娘が札幌にいるっていう話、昔は連絡線が苫前から出ていた話や天売島の今の様子などなど。しゃべっていると時間はすぐに経ちフェリーの時間に。最後にペンギンに似たオロロン鳥のちゃっちい人形(のち管理人に寄贈。まだ車に置いてくれてるかな)とマリモ羊羹モドキのお菓子を買った。別れ際に、店番しながら袋づめしていた乾燥岩海苔までくれた。そして、焼尻でも、天売でも、島の人がみんな言ってくれる「また、来てね」の一言。
帰りのフェリーとバスの中では爆睡していた。余りにもいろいろありすぎる日々だった。目が覚めたときバスはすでに札幌市内に戻ってきており、ふとなぜ今ここにいるのか分からなくなる。さっきまでは人工物のほとんどない世界にいたのにいつの間にかネオンきらめく都市の世界へと戻っていた・・・(と小説風にまとめてみる)
~おわり~
ご迷惑をかけた宿
栄丸
萬谷旅館
説明メンドクサイのでここでも見て
オロロン鳥
↑天売島の北側には断崖が連なる。
↑赤岩。写ってないが無数のウミネコが飛んでいた。